「よもやま話・12」

トルク本願と馬力本願

先日、某カ−メ−カ−の研究室で触媒の研究をされている方とお話をする機会があり、「ディ−ゼルのパティキュレ−ト」がメカニカル・フリクションを減らす事で減少するかどうかという問題について長時間お話ししました。
勿論「ミリテック」の話です。


ご専門は触媒ですからエンジンオイルに燐やら硫黄やら入れるのは「絶対に許しません」というお話で、テフロンの話にはやはり「樹脂がエンジンに効果ある筈がありません」とおっしゃっておられました。これらの投入による排気ガス中の異常な酸化物の増大で触媒に損傷を与えるばかりかその機能を失う可能性があるという事で、排気ガスの発生元である内燃機関の潤滑についても研究の範疇であるというお話でした。

ディ−ゼルの黒煙は見て判る話なので判り易いですよね、
いかに燃料をキレイに燃やすかという事が論点なので燃料がガソリンでも同じ事です。基本的なエンジンの構造はどちらも同じです。燃料自体の発火点が異なる為、燃料の供給方法と圧縮比が違う訳です。

ディ−ゼルの黒煙に関してはこのペ−ジに何度も出てきていますが、「無負荷の状態では黒煙は出ないものだ」という(勿論新車の話ですからね)事と、「負荷がかかった時に出る黒煙は仕方のない話」と認識されている様子でした。私の車に貼り付けられた白文字のバンパ−ステッカ−はマフラ−のすぐ上にありますが「ススけていない」のをご覧になってちょっと興味を示していらっしゃいました。(間もなく20万キロですからね)


  1. 回転の上昇に応じて全ての燃料がエネルギ−として還元されるように「徐々に」アクセレ−トする場合は、この「徐々に」が完全燃焼を助けるので黒煙は出にくい。
  2. 逆に一気に床まで踏み込めば過剰な燃料は燃え切れずに排出されます。当然不完全燃焼であり、この場合黒煙が多く出ます。
  1. 機械自体が持つメカニカル・ロスは例えばエンジンでピストンがシリンダ−内の空気を圧縮する時の事を考えてみて下さい。圧縮の始めはエンジン自体の回転の惰性である程度の所まで圧縮可能ですが、圧力が上がってきた時には次第に重たくなります。
  2. 重たくなるという事はそこで「関節」の役割をしている部分、つまりクランクとコンロッドとピストンのそれぞれメタル・ベアリング及びピストンピンには次第に荷重がかかる訳で、
  3. この金属摺動部が軽く動くかどうかで「圧縮」という作業のストレスは違ってくる事になります。
  4. 軽い力で同じ「圧縮」という作業が出来ればクランクの回転軸に伝わるトルクはその分大きくなります。

内燃機関であるエンジン内部のメカニカルロスはネット出力のマイナス要因として全ての回転域で反映される訳ですから、外部的な負荷(=つまり仕事をさせた時)には「メカロス」という仕事の「余力」でしか働けない宿命です。


従って、このメカニカルロスを減らす努力がいかに有効であるかは良くお分かり頂けると思います。

  1. コンプレッションを最大に引き出せて
  2. 全体の足を引かない程度の固さの範囲内で
  3. 重過ぎず、やかましくない中での
  4. 好みのテイストのものを選択して頂く事になると思います。
  5. 金属面自体が滑りやすい状態ならば、やや固めにする方が良い結果が期待できます。
    あくまでも好みのテイストで。
  6. 2002年よりこちらで輸入取り扱いを始めたアリシンというオイルは、粘度設定が自由自在にユーザーサイドで行える希有で非常に優秀なオイルです。機会があれば是非一度お試し下さい、粘度調整は非常に面白いです。
  7. 軽く回って、尚かつ低域もトルクフルで高域までも全域でトルクフルという粘度は自分で造るしかないんですよね。
    粘度は非常に繊細ですが、要求粘度が叶えば何よりもキョーレツなエンジンに豹変します、お試し下さい。

メカニカルロスが減るという事は単に滑りが良くなって吹けが良くなる事だけが頭に浮かびがちですが、実際には今の話で「トルクが太る」感じがすると思います。全域でトルクが太るという事は従来の仕事をするのに以前よりも低い回転で済む事になります。

それでは最高回転域ではどうなるのかというと、それも同じ事でその回転としては従来よりも太いトルクを発生しますから結果的には最高出力もアップする事になります。


燃料が燃焼して発生する熱量をKCALで示しますが、内燃機関で燃料によって発生するエネルギ−は発生する摩擦によって単純に熱として還元されます。爆発によって発生したエネルギ−もその発生エネルギ−を伝達する過程でで発生する摩擦熱も総量で言えば単位当りの燃料によるエネルギ−の仕事です。つまり摩擦と摩耗、発熱その部分は完全なロス。内燃機関では排出されるまでの行程で起こる全ての事が燃料の発熱量で引き起こす仕事です。

981127追記

内燃機関の作動温度が下がるという事はとても大切で、摩擦熱が減少した分だけが単純に力学的なエネルギ−に変わるだけではなく、機関本体の温度が低下する事で圧縮される混合気もその分余計な熱を受けないため余分に膨張率を稼げますから爆発によって得られるエネルギ−は更に増えます。この話はタ−ボにインタ−ク−ラ−をつけるのと同じ理屈です。

水冷の車では作動温度が低下してもサ−モスタットの開弁が遅れるだけで、サ−モスタットがク−ラントの温度を調節しますからこの変化は見る事が出来ませんが、空冷(油冷)の場合ならば直接オイル・テンプで確認できます。

「ミリテック」を使用されたVWのユ−ザ−さんから先日ご報告頂きましたが、高速道路、市街地走行、ク−ラ−の使用など全ての環境で一貫して油温が10℃低下したという事です。

オイルの性能劣化はこの温度に因る所が非常に大きい為、オイルの温度が10℃違うという事はオイルが如何に良い仕事を継続するかという問題と最大の能力を発揮できるかどうかという問題で極端な違いが出ます。オイルにとってこの10℃の差は非常に大きな差となります。

ドライ・スタ−トと暖気も参照して下さい。


例えばエギゾ−スト部分の端から端まで冷却してやる事で全体の機関としての無駄な発熱を最小限にすれば発生エネルギ−は増大すると考えられるのですが、或いは膨張している排気を冷まして体積を小さくしてやれば排気効率は上がるでしょうね。ただ、どれくらい抜けると最適な燃焼効率が得られるかという話は非常に難しいと思います。

そんな事を試しているとすぐにお巡りさんに切符を切られるので一部の若者の単車乗り以外試す人はいませんね。実際には抜けすぎる事で燃焼効率はかなり悪くなるようです。

スポ−ツマフラ−に関しても似たような事がいえる訳で、排気に対する適度な負荷は燃焼室内の混合気が抜け出てしまうのを防ぐ働きがあり、抜け過ぎは燃焼室に負圧をかけて混合気を抜いてしまう為、生ガスのまま放出する事になります。排気系の冷却といった効果があるといえばそれまでですが、程度問題です。

この手のマフラ−装着車の後ろについた時、ほぼ半分の確率で私は窓を閉めます。生ガス臭くて頭が痛くなる為です。暖気の不充分な状態で負荷をかけているのと同じく燃料の濃すぎる証拠です。抜けすぎるとリッチでなければパワ−が得られません。ああいった状態ではかなり燃費も悪いんだろうなあ・・・。火を噴くのが目的だというのなら頷けますからいつも点火していてもらえばもう少し臭くないで済みそうですが、普段その状態で通勤したりするのはあまり誉められた話ではなさそうです。

実際にはマフラ−を替える事で期待した結果が出ない為に燃料が濃くなってしまったせいなのだと思いますが・・・。

スポ−ツマフラ−も車検が通るようになったせいで沢山のメ−カ−が凌ぎを削っている訳ですが、キチンと研究開発費を投じて送り出されている製品はやはり高い。そこでチョット我慢した結果の話かと思いますから、製品の選択にはくれぐれも注意を払って下さいね。決して安いと悪いという意味ではありませんから悪しからず!


981216追記

他の部分とも少々重複する部分が出てしまうかも知れませんがもう少し補足します。

内燃機関であるエンジンの仕事としてはここでも触れましたが

  1. 燃料を燃やす事で動力を得る事を目的としている訳ですから
  2. 燃やした燃料が熱エネルギ−として昇華される部分を最小限に食い止めることで
  3. 効率の良い仕事が達成されます。

この話はご理解頂けたと思います。

つまり単位燃料当りの発熱量で出来る仕事は一定量と決まっています。
だからこそ全体のメカニカル・ロスを減らす努力で全域のトルクを太らせる事の意味が重要性を増す訳ですが、
この考えをもう少し広げてみると「原因」と「結果」は常に左右対称でイコ−ルで結ばれる事がわかります。

例えばトヨタは90年頃から乗用車のエギゾ−ストを全てステンレス製にしました。これは腐食を防ぐ意味ともう一つ「排気系統の冷却効率向上」という重要な意味があります。バイクなどにはいち早くこのステンレス・マフラ−が純正(組み付け)採用されていましたが、高価なステンレスを自動車用にも採用したのは時代の要求でもある低燃費を達成する為、より効率の良いエンジンを世に送り出す必要があった為です。

エギゾ−ストをステンレスにというのは特別新発見でもなんでもなく、昔から競技用においては排気効率を上げる為の当然のチュ−ン項目でしたが「高額」であった為に一般の車両用には作られていませんでした。初めからステンレスのタコ足が付いてくれば今よりももっと嬉しいですけど・・・。

効率の悪い、燃費の悪いエンジンでは競技には勝てません。その意味ではカ−メ−カ−の研究室もレ−シングのエンジニアも考えている事の本質は全く同じで、効率の良い信頼性の高いものを探求している訳です。そこに多額の投資を行っているわけで、量産車の場合はコストの抑制という条件も厳しくなるのは事実ですが、実際にはかなりのレベルでコスト面の話は量産効果で解決しています。

そこで先のスポ−ツ・マフラ−の話です。

自動車メ−カ−、例えばトヨタは莫大な研究費を投じてこのステンレスマフラ−を投入したわけですが、車検の法律が緩和されてスポ−ツ・マフラ−も認可が下りた。しかし、悪い事に最近のエンジンは殆どすべてがコンピュ−タ−制御による燃料噴射装置がついており、当然その全ては当初の純正仕様に設定されています。

そこで、大口径のスポ−ツ・マフラ−を取り付けて重低音は出るようになったが従来の走りと比べると・・・「
となってしまったという方がおみえでしたら良く考えてみて下さい。

左右対称でイコ−ルで結ばれるのは燃料だけではなく、内燃機関の全ての仕事に共通していえます。つまり、吸入と排気もイコ−ルですから出口が広がるとどうなるか・・・、ということです。

例えばストロ−でジュ−スを飲むのに細いストロ−と太いストロ−を使った場合、吸い込む力が同じなら太いストロ−で吸った時にはいきなり大量のジュ−スがドバッと来てむせるでしょう。学習能力のある人間なら違うストロ−を使用する時には自分で吸い込む量を自然に調節しています。

車のコンピュ−タ−にも学習機能はありますが、あくまでも初期設定デ−タに対応する学習になりますから、例えば出口が広くなった事で排気効率が極端に良くなった為にそこで発生する負圧によって燃焼室の本来とどまる予定だった燃え残りが排気側に引きずり出されてしまう為に混合気は希薄になりますからアイドリングは低めになって不安定になる。これを学んだコンピュ−タは記憶デ−タを駆使してアイドリングの安定や最適な爆発を得られるように燃料濃度、吸気量の補正を実行します。しかしながら実際には出口が広がっていますよという本当の情報を知らされていないために、ここで行われている補正は何の役にも立たなくなります。結果的にアイドリングは安定しないし、排気ガスが生ガス臭い割には実際の燃焼室中は燃料に対して正常以上の量のエア−が流れ込んでしまう為燃料はリ−ン気味(あるいは全く逆に抜けすぎる事で薄い空気の中に多めの燃料)になり、アクセルのレスポンスは悪く、立ち上がりがガフガフいう感じになるのかと思います。

片手落ちであったり、ピント外れなチュ−ニングはしない方がマシ。ということになりますから、一貫したサ−ビスを受けられるメ−カ−のアイテムを選択して頂きたいと思います。つまり、排気効率を上げるなら必ずコンピュ−タ−関連のチュ−ンもセットで行ってください。

 


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(981125)